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ノッティングヒルの芸人(後編)


それから1週間後、初めてのネタの打ち合わせの日がやってきた。


最初はやっぱり自己紹介だよね。わたしのことを分かってもらうために、簡潔、かつ明確に、を心がけて話すことにした。

小さい頃から漫才師になりたくて相方を探していたこと、だけど『これだ!』と思う人に出会えなくて今に至ること、そして、彼が本屋に来たとき初めてビビッときて、勇気を出して声を掛けたこと。もちろん、ノッティングヒルの恋人の大ファンだと言うことも。
改めてコンビになってくれた感謝も伝えると、彼は恥ずかしそうにモジモジして、頭をポリポリ掻き出した。

そもそもノッティングヒルの恋人好きのわたしが、なぜ漫才師になりたいのか、ということを補足しないとね。
ジュリア・ロバーツってそれこそラブコメの女王でしょ?彼女のラブコメでのテンポの良さって言ったら、本当に漫才とかコントを見ているみたいだな~って、ある日ふと思ったの。それに、彼女の持つセクシーさと可愛らしさ、ちょっとオーバーなリアクションと、たまに見せる「ヌケ感」みたいなのが最高のバランスじゃん!あぁなりたい!って。でもわたしはハリウッド女優として輝くことはできない、だけど、漫才師になってジュリア・ロバーツみたいな雰囲気をこっそり出すことはできるかもしれない、って考え方をちょっと変えてみたの。そしたら居ても立っても居られなくなっちゃって、自分でネタを書いてみたり、YouTubeで漫才やコントを1日中見ていたり、お笑いライブにも通ったり。あとは相方を探すのみだったんだけど、これが一番大変だったってわけ。

そしてようやく見つけた相方、彼の名前は、国尾 護(くにおまもる)。わたしが言うのも何だけど、ネタみたいな名前!と心の中でキャッキャしちゃった。
歳は30歳なんだって。10コも上なのに、年上に見えないんだよね。ちょっと頼りないし、フワフワしてる感じで、ペットみたいに首輪をつけていないといつの間にかどこかに行っちゃいそうな不安定さを持ってるんだよね。わたし的にはそこがイイ部分でもあるんだけど。
国尾さんは自衛隊になりたかったけど訳あってなれなくて、自衛隊オタク(ミリタリーオタク、ミリオタと言うらしい)として活動しているって話してくれた。きっと生まれつき身体が悪いとか、家庭の事情とか、そんな理由だろうと思って、気を使って詳しいことは聞かなかったけどね。自己紹介の最後に彼は立ち上がって、
「私もバディが見つかって非常に嬉しく思います。素人ですがよろしくお願いいたします。」
と軍隊仕込みの・・・あ、違うよね、正しく言うと、軍隊もどきのきれいな敬礼をして締めくくった。相方のことを『バディ』と言うのはちょっと違いますよ、とツッコミかけたけど、こんな国尾さんの良さ(面白さ)を大切にしていこうと、なんだかシャキッと気が引き締まったわけ。

すると、国尾さんはいきなり「私、ネタ、考えてきました」とカーゴパンツのポケットから、メモ帳を取り出してわたしに見せてきたの。さっと目を通してみたけど、南海キャンデーズさんとオードレーさんのもろパクリだった。南海キャンデーズさんは男女コンビで女性のほうが大きいから、わたし175センチ、彼162センチで、設定としては間違ってないんだけど、ネタまでパクっちゃアウトだよね。オードレーに関しては、わたしが「テーッス!」しか言わないから、残念ながら即却下。
国尾さんが言うには「自衛隊には模倣が重要」なんだって。確かに、諸先輩方の漫才を勉強したり、参考にさせてもらったりってのはあるけど、もろパクリはダメ、ゼッタイ。だけど初日からネタを考えてくるなんて、かなりやる気があるみたいだし、これからいい漫才ができるかもしれないって、ワクワクしちゃったのも事実。

目標とする漫プリ(年に1回開かれる漫才グランプリのこと)までは、あと8ヶ月。
それから、わたしがネタを作って、練習して、フリーのライブで経験を積んでいった。だんだん息も合ってきて、「色」と言うのが出せるようになった気がしていた。言い忘れてたけど、コンビ名は「アナ&スコット」に決めたの。お気づきの通り、ノッティングヒルの恋人でのジュリア・ロバーツの役名「アナ・スコット」から取ったのね。映画のウィリアムと一緒で国尾さんは、たまにフニャフニャした態度やネガティブになることもあったけど、その繊細さも大切にしようと思って、わたしがリードしてやってきたつもり。


そして迎えた1年目の漫プリでは、なんと準々決勝まで進んじゃう快挙!

まぁ、ビギナーズラックっていうのもあったのかな。フリーでやってる凸凹男女コンビっていうのも目立っていたみたい。そこまで進んだというのもあって、漫プリの後に、ある事務所からスカウトがあったの。国尾さんに相談してみたら「自衛官にも所属がありますからね。私は陸上自衛隊を希望しています」と訳の分からないことを言い出したから、わたしの判断で所属することに決めちゃった。その事務所は小さかったけど、わたしたちを積極的に売り込んでくれて、定期的なライブや営業(イベントとかに出ること)もさせてもらって、去年より自力ってのが付いた気がするんだ。


あっという間にやってきた、2年目の漫プリ予選。

去年の準々決勝も勝ち抜いて準決勝に進み、さらに、まさかまさかの決勝の舞台に立つことになった!!
決勝に残ったのは8組と敗者復活の1組。夢にまで見たあの舞台。

いつも感心するんだけど、国尾さんはどんな舞台でも全く緊張しない。わたしが舞台袖で「ドキドキするぅ~」って言ってると、「バディーがお互いを信頼し合っていれば大丈夫です」とまっすぐに目を見て、わたしに言ってくれる。頼もしいような、少しズレているような、でもその言葉でわたしの緊張がほぐれちゃうのが不思議なんだよね。


ジャカジャンジャンジャンジャン・・・・


入場の音楽が流れて、勢いよくわたしたちは飛び出した。


「はい、どーもぉ!!」


いよいよ4分間の戦いが始まった!


アナ&スコットのネタは、わたしの力強いツッコミと対照的な国尾さんのボヤキ。そして、芝居調で進んでいくストーリー性の高いコントよりの漫才、っていうのがスタイル。

勝負をかけていたわたしたちは、決勝の1回戦から鉄板ネタ「カッコいい男になりたい」を持っていくことにした。ライブでも営業でもよくやっていて、手応えもあって、わたしたちが間違えようもないネタ。もちろん少しアレンジはしているけどね。

「カッコいい男になりたい」国尾さんがまずは警官になろうとし、そのあとドラマのカッコいい名シーンを真似し、最後に本当になりたいものを宣言するという流れ。

ネタは順調に進んで、最後のわたしからのネタフリ、
「じゃあ、夢を語ってください!でっかい夢!カッコいい男なら夢を持っているはず!」

そして、国尾さんは「僕、夢は見ないタイプなので…」とボケる、そしてわたしがツッこむ!

・・・はずが突然、


「自衛官になりたいです」


ってネタと全然違うことを呟いたもんだから、わたしは思いっきりうろたえちゃって、
「え・・・ちょっと・・・ネタ違いますよ。こ、こ、こ、ここへ来て緊張って、おそ!」
って何とかフォローしようとしたけど、お構いなしに国尾さんは急に神妙な面持ちで語りだしたの。

「君にバディを組まないかと声をかけられたとき、私の夢である自衛隊を捨てられるんじゃないかって、そう思ったんです。そもそも、私は学歴も仕事もないし、誰かに指示されないと何もできない人間で、自衛隊の格好をするのが精一杯で・・・。」

「それ、結構勇気いると思いますけど。」これは素でツッコんだわたし。

「でも、私だってなりたくてこうなったわけじゃないんです。
大学に行かなかったのは、勉強をしなかっただけなんです、とにかく勉強が嫌いだったからです。
体だって丈夫じゃないですよ。生まれつきとかじゃなくて、動くのがだるいだけなんです。
それに、親が・・いや、ママが過保護だったらいけないんです。仕事しなくてもいいって言うんです。だからです。」

って本当に最低のヘタレ宣言をしたら会場にドッと笑いが起きた。
だけどわたしは笑いが起きたことなんてどうでもいいくらい、国尾さんの発言が頭に来て思わず、

バチンッ!!

生まれて初めて平手っていうのをお見舞いしたら、2mくらい吹っ飛んだ。会場はさらに笑いに包まれた。
国尾さんは「オヤジにもぶたれたことないのに!」って顔で頬に手を当ててわたしを見つめていたから、さらに怒りが増して、

「いい加減にしてください!みんな辛いんです、苦しいんです。それでも自分に喝を入れて、勉強したり、鍛えたり、働いたりして一生懸命生きてる!どうして、今までそんなことも気づかずに生きてきたんですか。この2年は何だったんですか。あなたを見込んだわたしがバカみたい・・・しかもどうしてこの大切な舞台でそんなことカミングアウトするんですか。やっぱり自衛隊になりたいなんて、今頃言うなんて・・・今までの時間、返してくださいよ・・・」

わたしは座り込んで泣いてしまった。もう決勝の舞台とかどうでも良くなってたから。会場はシン…となっていた。
悔しさと情けなさ、不甲斐なさ、恥ずかしさ、苦しさと、わたしの持つすべての負の感情が体中を覆っていて、もう力が入らない。

たしかに国尾さんはテンションの上がり下がりが激しかったし、病気を理由にネタ合わせに遅れることもあった。自分に甘いなって思うこともあったけど、それでも2人で漫才していると楽しかったし、いいコンビになってきたと思っていたのに・・・

すると国尾さんが「でもどうせなれないから安心して下さい。もう31歳だし、学歴も経験も資格もない私は、自衛隊になんてなれませんから。」とまたヘタレ発言。この際だから、わたしはずっと彼に対して思っていたけど言えなかったことを、ついに話すことにした。

「自衛隊になら、なれますよ」

国尾さんはたまに「やっぱり自衛隊になりたいなぁ」と呟いていた。でもわたしはコンビとして活動していきたいから、聞かないふりをしていた。たくさんネタ合わせや仕事をして力をつけて、何かの漫才コンクールで優勝できればその気持ちもいつかなくなるだろうと思っていたから。
でも半年くらい前にわたしは偶然ネットで「予備自衛官補」という制度があるってことを見つけてしまった。絶対に、国尾さんに気付かれてはいけないと思って、そのことを隠してここまで来たんだけど、言ってあげなきゃいけないタイミングが遂に来たんだね。

「予備自衛官補」というのは、日本国籍のある155㎝以上で34歳未満の人であれば誰でもチャレンジできるもので、筆記試験、口述試験、適性検査、身体検査にクリアすれば合格となる。3年以内に50日訓練があって、1日当たりの手当は7900円。年に2回募集があると自衛隊のHPに書いてあった。

この説明を一通りしている間に国尾さんの眼にみるみる光が差していくのが分かった。
そう、私のやっていることは間違ってない・・・
私がそうだったように、夢は挑戦しないと悔いが残るんだから。

「私、それになります!!」

今度は意思のこもった力強い声で、国尾さんは宣言した。

「でも、君は・・・?」一応、わたしのことを気に掛ける余裕はあったみたい。

わたしはこの返事が国尾さんへの最後の言葉になると直感的に分かった。

国尾さんをまっすぐに見て言った。「いいの、行って。」
でも、その先は目を見ることができなかった。国尾さんに背を向けて、言葉を続けた。


「覚えておいて。わたしはお客さんの前に立って、みんなに笑ってほしいと願っている、ただの女芸人だってことを。」


そう、このセリフは、ノッティングヒルの恋人での一番大好きなシーンのオマージュ。


「I'm also just a girl, standing in front of a boy, asking him to love her.」
(私だってただの女の子。男の子の前に立って、愛してほしいと頼んでいるの)


もちろん、気持ちはジュリア・ロバーツ。
愛した男を、いや、愛してないけど、相方に選んだ男に振られた切なさと辛さを押し隠して、必死に笑顔を作って彼を送り出すわたし。決めゼリフを言い放った後は、目に涙を浮かべたまま、ゆっくりと彼のほうに顔を向けたら・・・


いないじゃん!!


わたしの決めゼリフの間に、国尾さんは勢いよくステージを降りていたようだ。
そこでふと思い出した。


ここ、漫プリ決勝の舞台だよね!?!?

やっばーい!!


でもなぜかお客さんは優しい笑顔でわたしを見ていた。
わたしは90度よりももっともっと深い、地面に頭が付くぐらいのお辞儀をしてから、舞台を後にした。

こうして、アナ&スコットの漫プリは、終わった。
ネタのようでネタでないサプライズ解散を生放送の漫才コンクールでしてしまったわたしたち。ある意味、伝説を作ったって言えるよね。本来であればネタの時間が過ぎたら強制的に終了になるのがルールなんだけど、番組プロデューサーがGOを出して続けさせたと後から聞いた。

国尾さんは漫プリの後、忽然と姿を消した。
あれから1ヶ月、元相方の国尾護くんは、「国を」「守る」自衛隊になるために勉強に勤しんでいると、そう信じたい、いや、信じてる。

一方、わたしは。
漫プリでの失態とも言えるネタが噂となり、どうしてか役者としての仕事が増えたのには、自分が一番驚いてる。あの、涙ながらの訴えがお茶の間の心を揺さぶったんじゃないかってマネージャーは言ってたけど本当かな。
実はアナ&スコットの解散劇はすべてネタで、演技だと思っている人が多いと2chに書いてあったのを読んだけど、今となってはもう何でもいいやって思ってる。


そして今日は、来年出演する舞台の記者会見。
たくさんの報道陣が、漫才コンクールから誕生した、ある意味シンデレラとも言える呂別 樹里亜という女優、とここでは言わせて、に注目している。

会見での質問は、わたしに集中した。
最初に指名された記者がまずはこう聞いてきた。「お笑い芸人としての活動は?」
「お笑い芸人としての活動は一旦お休みします。今はこの舞台に集中したいので。」
また別の記者が指名された「元相方さんと連絡は?」
「彼とは友達です。あれから会っていませんが、そう、思いたいです。」

すると真ん中の後ろの方にいた記者が手を挙げた。そして、こう聞いた。
「状況が許すなら、その元相方と、再びバディを組む可能性はありますか?」
バディ・・・なんだか懐かしい響き。こんな質問をしてくるなんて、どこの記者だろう・・・
不思議に思って、目を凝らしてその記者を見ると、そこには見慣れた顔、国尾護の顔があった。私はこう答えた。
「そうなることを望んだ時期もありましたが・・・ムリです。」
ふつうは記者は1つの質問で終わるんだけど、彼は、さらに続けた。「でも、もし・・・」
「もし・・・?」思わずわたしは聞き返していた。

「よく考えた末、その人物が、、、国尾・・・そう国尾さんが、やっと気づいたら?自分は大バカでドアホだと。そして、ひざまずいて、バディをやり直したいと言ったら・・・やり直しますか?」

わたしは・・・どうしたい?自分自身に問いかけた。
わたしの夢は・・・・そう!漫才師なんだ!!

答えは明白。

「えぇ、やり直したいです!!」

彼は「とってもいいニュースです!」と言って、さらにもう一つ質問をしてきた。


「じゃあ、最後にもう一つ。お笑い芸人としての活動はいつまで?」


「永遠に。」


(読者の皆さんの脳内で、エルビスコステロの「She」を流してください♪)



~Fin~
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プロフィール

まりお

Author:まりお
「“フリ”ライター」高島まりおです。

気になる方へインタビューし、記事を書いていきます。
その他、面白いこと、楽しいこと、興味あることを中心に、綴っていきます。

月一でインタビューイベントを開催しています!
「フリライターまりおの取材してるふり。」

イベントと記事(ブログ)連動していますので、こちらも是非チェックをお願いします。


目指すは…Sex And The Cityのキャリーブラッドショー!

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