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先生バー(後編)

「彼女、可愛いでしょ」

視界の左側からヌッと顔が現れた。
ビックリして後ろに倒れそうになったのを全力で腹筋を使って耐えた。

「昔は美人ドクターとか言われて、テレビに出たりしてたんですよ~」

 頭髪を7:3にピシッと固め、黒縁メガネをかけ、黒のベースに白い水玉の蝶ネクタイをつけたバーテンダーは、思いっきり歯を見せて笑った。年齢不詳だが、四十半ばといったところか。
「次は何にしましょう?」と彼は注文を聞いた。さっき飲んだアラスカが効いていたので、チェイサーと薄めのハイボールを頼んだ。

彼がチェイサーとハイボールをテーブルに置いたとき、ベストに着いた光るバッチが目に入った。
さすがに海外にいた私でも知っている。あれは弁護士バッチだ。

「あなたは弁護士の先生なんですね」

「あ、これ気付きましたか?だけどこれはもう何の意味もありませんね。過去の勲章とでも言いましょうか。アクセサリーみたいなものですよ。ご挨拶遅れました、私、本橋と言います」そう自己紹介して、本橋は話しだした。

✽✽✽✽✽

 まぁ、そのかつては弁護士でしたよ。僕が小さい頃、母親がいつもDVDでドラマを見ていましてね、2000年代にブームだったHEROっていうドラマでした。それに影響されて、弁護士になりたいなぁと小学校の頃からなんとなく思っていました。でもね、中学生の時にHEROの新シーズンが始まって気づいたんです。HEROって、検事の話だったんですよ。幼かったんでよく分かっていなかったんですねぇ。まぁでも、そのまま弁護士を目指しました。運良く浪人せずに志望大学の法学部に入って、法科大学院へ進んで、司法試験にもストレートで合格して、弁護士事務所で働き出しました。

 実際はドラマのネタになるような刑事事件はほとんどなくて、離婚問題、相続問題、借金・破産という自分の人生においては関わりたくない事例と毎日のように向き合っていました。
 あのね、間違ってはいたんですけど、昔見たそのドラマの主人公、えっと、あぁ演じていたのは木村拓哉です、あ、お客さん知らないかな?あ、知ってます?その人柄というか仕事への姿勢っていうのはすごく印象に残っていましてね。納得いくまで調べ上げる、事件の大小に関係なく取り組む姿は僕もモットーにしていたんです。

✽✽✽✽✽

と、少し胸を張って言ったかと思うと、本橋は急に顎に手を当て考え事を始めたのか黙った。
沈黙に耐えるために、ハイボールとチェイサーをゆっくり交互に飲んでいたら、

「あ、そうだ!久利生検事だ。その木村拓哉が演じている検事は、久利生って言うんですよ。」と本橋は叫んだ。

✽✽✽✽✽

 久利生検事はね、金髪にジーンズの出で立ちと、その破天荒な行動から最初は煙たがられちゃうんです。普通、検事っていうのはデスクワークが多いんですけど、彼の場合は自分で調べに行っちゃう。時に出過ぎた行動をしちゃうこともあってね。だけど、次第に仕事に対する熱意を同僚が認めて、信頼しだすんです。

 僕もそんなモットーを貫く弁護士になろうと一生懸命事件と向き合ったんです。そしたらね、噂が噂を呼んで、事務所に僕宛の仕事の依頼が増えましてね。まだキャリアは浅かったんですけど、独立することにしました。新しく事務所を立ち上げてからも、「本橋先生だけが頼りです」と過去の依頼者やその紹介を受けた方が僕を頼って訪ねてきてくれる。嬉しかったですよ。忙しいながらも事件の大小問わず取り組んでいましたが、どうしても大きい事件に割かれる時間が多くなるでしょう。比較的小さい案件を処理するのをすっかり忘れましてね、それがクレームに繋がりました。とても私を信頼して下さっていた依頼者だったっていうのもあって、「信じていたのに!」と必要以上に騒ぎ立てましてね。体調もあまり良くなかったというのもあって、ちょっと熱が冷めるまでと、一旦事務所を休むことにしました。

・・・その時に、ある人物がコンタクトを取ってきたんです。

✽✽✽✽✽

本橋はここからが本番だと言わんばかりにニヤっと笑いながら、人差し指を立てて「1」作り、顔の前に突き出した。
その手をゆっくりと自分の目に持って行って
「このコンタクトじゃあ、ないですよ、ハッハー!」とくだらないダジャレを言い放った。
私は肩の力が抜けて、少し話を聴く気が失せたが、彼は話を続けた。

✽✽✽✽✽

 ま、冗談はこのくらいにして、その人物は国、つまり政府の人間でしてね。今後、裁判に「あるシステム」を導入する話が進んでいるので協力しないかと言われました。人が人を裁くのはリスクが大きい、大きく法律は変わっていないのだから、過去の事例をデータベースに落とし込んで、コンピュータで裁判を行えるようにしたい、どうしても発生してしまう誤審を無くしたい、とそんな話でしたね。弁護士や検事、裁判官の考えや経験によって左右されることのない平等な裁判を行うために必要なんだと言っていました。

 実際、死刑については今も執行を容認する派と反対派と議論が耐えません。
加えて、2009年から実施されていた裁判員制度も問題が多くありました。三十年前くらいに残忍な事件の裁判員をされた方がストレス障害を起こし、今も苦しんでいると聞いたことがあります。

 そんな話もあって、確かに人が人を裁くこと自体が無理だったのかもしれない、とも思い始めましてね。だから、その裁判のシステム導入に協力することにしたんですよ。
 指定の場所に行ったら、周りが全く見えないバスに乗せられてある施設へ連れて行かれましてね、そこには知り合いの弁護士や、テレビにも出ている有名な弁護士も乗っていました。
政府の人間は、協力を要請してきた時の丁重な姿勢と打って変わって、急に上からものを言うようになりました。
弁護士なんて今の時代には必要のない仕事だとか、「先生、先生」と呼ばれ頼りにされていい気になってたんじゃないかとか、そんなことでしたね。改めて周りを見回してみると、最近大なり小なり裁判で負けていたり、依頼者とトラブルを起こしたりした弁護士が集められていると気付きました。

 慣れない環境で疲れもありましてね、反抗する気力もなく、ただただ僕の携わった事例の全てをデータベースに落とし込む作業に没頭していました。1ヶ月ほどで解放され、十分すぎる謝礼を渡されましたが、僕はもう弁護士ではありませんでした。それから1年ほどして裁判に無人システムが導入されたことがニュースになりました。

✽✽✽✽✽

 私は何も飲まずに話をじっと聞いていた。話が一旦ブレイクすると喉の渇きを覚えてチェイサーを一気飲みした。
そしてハイボールを一口飲んで、こう聞いた。

「じゃあ今は、裁判はコンピュータが行っているんですか」

✽✽✽✽✽

 そうですよ。表向きは何の問題もなく、行われています。学校も、病院も、裁判もね。
もしかしたら、政治もすでにコンピュータが行っているのかもしれません。

 僕はね、日本の組織が「先生」っていう立場の人間を全部排除しようとしていると思うんですね。
先生はかつて聖職とされて、崇められた。でもね、教師だって、医者だって、私たち弁護士だって、人間だから過ちを犯すでしょ。でも許されないんですよ。だからね、無くしてしまったら早いって考えたんじゃないかなって。テクノロジーが進歩したのをいいことにね。
 
 普通、コンピュータの中枢はマザーと呼ばれます、つまり「母」って意味ですよね。だけどね、日本のは「センセイ」って呼ばれているらしいですよ。先生は一人・・・いや一つ、それだけでいいってことですね。

 今はこうやってバーで働いていますけど、実は僕、漫画家になりたいんです。
昔から漫画オタクでね、ドラえもんが好きです。あ、知っています?海外でも流行っていると聞いたことあります。さすがだなぁ。僕はドラえもんの道具がいつか出来ると信じていました。昔ドローンってあったんですけどね、遠隔操作できる小さい飛行機みたいなのです。それを見たときタケコプターはもう少しで出来るぞ!と子供ながらに喜びましたが、今も出来ていません。あんなに素敵な道具は一向に出来ないのに、世の中はコンピュータやロボットが支配する味気ない時代になってしまいました。せめて、今の子供たちが目を輝かせて未来を想像できる漫画が描けたら、とこっそり書き溜めているんです。

✽✽✽✽✽

「今度、読ませてくださいよ」私は思わず言っていた。

「もちろん」と胸を張って本橋は答えた。


しかし、私は気付いてしまった。

漫画家も「先生」だと・・・


終わり。


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先生バーへのご来店、誠にありがとうございました…
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プロフィール

まりお

Author:まりお
「“フリ”ライター」高島まりおです。

気になる方へインタビューし、記事を書いていきます。
その他、面白いこと、楽しいこと、興味あることを中心に、綴っていきます。

月一でインタビューイベントを開催しています!
「フリライターまりおの取材してるふり。」

イベントと記事(ブログ)連動していますので、こちらも是非チェックをお願いします。


目指すは…Sex And The Cityのキャリーブラッドショー!

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