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先生バー(前編)

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「20年くらい前までは、日本っていうのはもっと人間味がある国だったんだけどねぇ」

最近通い出したバーで、昔の日本のことをベテラン風の女バーテンダーが話しだした。

そのバーは地下にある、よく言えばレトロな、悪く言えば古臭いバーであった。機械化が進む時代に逆らうかのように、全て人の手によって作業の行われる店だった。数人いるバーテンダーはどこかしら哀愁があり、社会から取り残されたような、なにかを抱えているかのような、そんな雰囲気を持っていた。

私は生まれてすぐに両親の仕事の関係で海外に暮らしていた。そのまま海外で仕事をしていたが、日本法人を立ち上げるということで、日本で仕事をし、暮らし出して1ヶ月。祖国でありながら全く疎い日本のことを知るのに良いチャンスと思い、話に付き合うことにした。

年の頃は40代前後くらいの、女バーテンダーは酒焼けなのかハスキーな声で語りだした。

✽✽✽✽✽

あれはそう、2050年だったわ。日本に大変革が起こったの。
あらゆる分野においてコンピュータによる「平等」な判断が用いられるようになったのよね。
それもそのはず。今まで当然のように行われていたことが、できなくなったんだもん。
文明の進化とともに、日本の古き良き時代は消え去ろうとしていたのね。

例えば、教育ね。
スマートフォンの普及によって子どもたちの授業放棄が横行してね。教員たちが授業を行っている最中でもスマートフォンを操作して、SNSでリアルタイムに投稿するのよ。教員が噛んだり、言い間違えたりしようものなら、”いじり”の対象となって、全世界へ拡散される。教員が生徒へ問題を出したとしても、「ちょっと待ってください、調べるんで」ってスマホを操作しだすんだから。そうよね、授業の前にスマホを回収したらいいのにって思うわよね、普通。今は授業で当たり前のようにiPadやタブレットを使うから、Wifiルーターを持っている生徒たちはすぐにインターネットに接続して、他のことに熱中し出すの。
それにね、とある学校では、スマホの回収に踏み切った日の夕方に、親が学校へ乗り込んできて、こう言ったの。
「うちの子が授業中にもし何かあったらどうするんですか?教室という密室の中で、先生たちに何かされていたら助けを求めることができないじゃないですか!」
この頃なんか、学級の9割の親がモンスターペアレントだったんだから。生徒を叱ったら、「なぜうちの子だけ叱るんですか」って文句を言ってくる。テストの成績が悪かったら、「先生の教え方が悪いんじゃないですか」って責任を押し付けてくる。ひどいので言うと、女の教師が結婚したら「子どもたちのことはもう見捨てたんですか」って理不尽なことを言って困らせてくるのよ。一生面倒を見るわけでもないのにね。しかも、そのほとんどが学校へメールを送りつけてきたり、SNSに投稿したり・・・。直接対話ができないんだから、解決へ導くのも難しいわよね。
だから、教師を志す者は皆無になったし、辞めていく教師がほとんど。なんとか耐えていた教員たちだって、使命感っていう細い軸にだけに支えられていたけど、もちろん精神的にはギリギリ。いつ辞めたっておかしくない状態ってなわけ。いくら少子化とは言ったって、人手不足は明らかだし、このままでは日本の教育が危ない・・・。

✽✽✽✽✽

「次・・・」

と言って、女バーテンダーがカウンター越しに顔を近づけてきたので、私は思わず仰け反った。

「何にされますか?」というので、私はポカンとなった。オーダーを聞いたのだと理解し、
「じゃあ、ハイボールで」と注文した。
女はグラスにウィスキー、続いて炭酸水を注ぎ、軽くかき混ぜた。よく見るとそのかき混ぜているマドラーは授業などで使う指示棒であった。

女はハイボールをコースター、それはよく見るとポストイットが3枚重なったものだったが、の上に置くと再び語りだした。

✽✽✽✽✽

ついに文部科学大臣が動いたの。「教育に平等を!」をスローガンにしてね。

いろんな教師がいるから、授業のレベルや質が変わってしまうってことで、日本にある全部の学校で、コンピュータによる授業が導入された。かつて一世風靡したPepperの進化版のような…あ、Pepperって人型ロボットなんだけどね、そのロボットが授業を行っているの。感情は持っているけれど、決して出さない。生徒の反応や感情は認識する機能があるわ。聞き取りやすい音声とスピードで話すし、ロボットだから話が脱線することもないわよね。生徒への質問もするけど、一回の授業で3~4人って決まっているみたい。ランダムで当てるけど、月々一人あたりの質問頻度は全く同じ。逆に子どもたちが質問することもできるのよ。完璧にプログラミングされているから、答えられないこともないしね。もちろん、授業と関係ないことは全く受け付けない。時間ぴったりに終わるように、全部計算して授業を進めることができるみたいね。子どもの様子はすべて録画されて記録される。あと、体温センサー機能もついているから、子どもの体調不良が見られたら迅速に対応できるようになっているの。テクノロジーってすごいわよねぇ。
つまり、日本全体で平等に授業をしているから、成績の差は子供たちの能力の差ってことになる。人間じゃないから依怙贔屓もないし、きちんと管理しているわけだから、親たちがクレームをつける隙もないし、そもそもロボットにつけたところで意味ないわよね。2000年より前になると教員が生徒を殴ることもあったんだって。でも当時はそれが指導の一つだったから問題になることもなかったらしいわ。それに、もっと昔の話みたいだけど、「バケツ持って廊下に立ってなさい」とか言う説教のパターンもあったみたいよ。それはそれで笑えるけどね。バケツ持って何を反省したらいいのかしら?
教師?そんな仕事なくなったわよ。みーんな、転職。ただ、各教科の飛び抜けて優秀な先生だけが、授業のプログラムを作る側の仕事に就いたって話は聞いたけどね。

✽✽✽✽✽

「あ、私、上がる時間だわ。」腕時計を見ながら、女は言って
「川西さん、こっちおねがーい!」とカウンターの反対側で静かにグラスを磨いていた女性に声をかけた。

「こちらのお客さんに、昔の話、して差し上げて。」女は私にウインクをして、奥に消えていった。

「改めて、いらっしゃいませ。最近よくお見かけしますね。」
と言いながら、川西と呼ばれた30歳前後に見える女性は、新しい暖かいおしぼりを差し出した。
「森さん、また過去の話していたんですか。あの人は昔話が好きだから…」と少し呆れ顔をしながら、
「何をお入れしましょう?」と注文を聞いていた。

「じゃあ、なにかオススメはありますか」と私が聞くと
「ちょっとアルコールは強いですけど、私らしいカクテルなんてどうですか?」と川西は答え、それで、と私は頼んだ。
カシャカシャとシェイカーの音が鳴り、目の前でショートグラスに黄色っぽい液体が注がれた。
「アラスカ、といって、シャルトリューズという薬草を使ったリキュールの入ったカクテルです。強いですから、ゆっくり飲んでくださいね。」

一口飲んで、喉の奥がカァっと燃える感覚がしたことに少しテンションが上がった私は、
「私は中東のほうに長いこといたのですが、出張でアラスカにも数回行ったことがあります。これを飲んだら何だかあの景色を思い出しましたよ」と彼女に言った。

一瞬困ったような、でも微笑んでいるような表情を見せ、川西は語りだした。

✽✽✽✽✽

昔の話…聞きたいん…ですよね?
今、お出ししたカクテル、私らしいって言ったでしょう。薬草を使ったお酒ってことで言ったんですけど、元々私、医者でした。ちょっと、強引ですかね。海外にいらっしゃったならあまり耳に入らないかもしれませんが、日本の医学って本当に素晴らしい進歩を遂げたんですよ。30年前はレベル4だと生存率が10%を切ることが多かったガンだって、今や30%に上がったし、難病に指定されていたものも治癒できて指定から外れたものもあるんですよ。それなのに・・・今病院はほとんどがロボット化しています。さっき森さんも、あ、さっきお話していた女性です、話していたと思いますけど、ちょっとしたことで足元をすくわれたり、理不尽なクレームを突きつけられたりするのが当たり前の世の中になってしまったんです。医者も人間ですから、ミスがゼロかと言ったらそうではないでしょ。でもどうしてか訴えられる医者ってこれまで医療に全てを捧げてきて、身を粉にして働いて、たくさんの人を救ってきた方が多いんです。そういう先生って、同じ医師からは足を引っ張られたり、利益追求型の病院では煙たがられていたりして、誰も守ってくれないんです…。まぁ実際、医療事故裁判っていうのは、患者さんがむやみに訴えているケースも多いし、専門性が高いから有効な立証がしにくいというのもあって、原告つまり患者さんの勝訴率はかなり低いんですけどね。でも今はメディアが必要以上に騒ぎ立てて、医師を悪者に仕立て上げる風潮が強くって。だから裁判に勝ったとしても、精神的に追い詰められたり、体調を崩したり、結果的に病院から離れていく先生が増えていきました。

✽✽✽✽✽

川西の目は涙で滲んでいた。私は、きっとこれは彼女自身のことなのだと理解した。
彼女がもし思い出すことが辛いなら、続きを話してくれてなくてもいいと思った。
きっとこの話はハッピーエンドにはならない。そう感じていたからだ。
何か言わなくてはと思い、「あの・・・」と言おうと口を開けた瞬間、彼女は再び話しだした。

✽✽✽✽✽

多くの人の命を救いたいと思っていました。だけど、自分の命も守れないような人間に救えるはずはありません。高い志を持つ医師たちは少なくなり、病院は完全に利益主義、ノーリスクの医療を行うようになりました。結果、学校と同じく、ロボットの世界です。確かにミスはありません。もし何かが起きたらロボットにミスはないと主張すればいいし、手術にあたっては誓約書も書かせますから、病院側は窮地に立たされることはないですよね。でも、いくら技術を結集した医療ロボでも、プログラムを超えた人体の反応や変化には対応できないんです。今でもロボットが行う手術には、スーパードクターと呼ばれる先生方が待機し、緊急事態に備えていつでも対応できるようになっています。あ、これは表向きには秘密ですから内緒にしてくださいね。でも、テクノロジーも本当に進化していて、これまで以上に医学と工学が一緒になって人の命を救うための研究が行われています。私はそこまでの知識も技術もなかったから、携わることはできなかったですけど。
だからお客さん、もし病気したら、すんごいロボットが治療してくれますから、安心してくださいね。
もしロボットが信用できなかったら、私のところに来てくれてもいいですよ。こう見えても腕には自信ありますから。

✽✽✽✽✽

さっきの涙はどこへやら、彼女は少し意地の悪い笑顔を見せ、店の奥へ消えていった。

彼女が消えていった扉をボーッと眺めつつ、無意識に空のグラスをもう一度口へ持っていっていた。

溶けた氷が生み出した少しの水を飲み干すと、喉の奥が、スーっとした。


(続く)


この続編は、10月13日(火)のイベントで・・・
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プロフィール

まりお

Author:まりお
「“フリ”ライター」高島まりおです。

気になる方へインタビューし、記事を書いていきます。
その他、面白いこと、楽しいこと、興味あることを中心に、綴っていきます。

月一でインタビューイベントを開催しています!
「フリライターまりおの取材してるふり。」

イベントと記事(ブログ)連動していますので、こちらも是非チェックをお願いします。


目指すは…Sex And The Cityのキャリーブラッドショー!

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