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訓練

フライヤー 

訓練


高島 麻利央


「訓練」
[名](スル)
1 あることを教え、継続的に練習させ、体得させること。
 例「きびしい―にたえる」「―して生徒を鍛える」
2 能力・技能を体得させるための組織的な教育活動のこと。
 例「職業―」

 僕は、今年の春から新入社員として働いている。とは言っても新卒ではなく、第二新卒だ。
表向きは留学をしていて半年卒業が遅れたことになっているが、プロレスが好きすぎて本場アメリカで見たくなって行っただけだ。アメリカで覚えたのは、プロレスのチケットの買い方と、技の名前と掛け声ぐらいなものだ。

 そんな僕でも思いのほか就職活動はスムーズに行き、3社受けて第一志望の会社に入社できた。実は僕は新卒向けの職業訓練に通っていた。いわゆるビジネスマナーであったり、PCスキルであったりを一通り教えてくれる場である。もちろんそれに通っただけでは内定はもらえないのだろうが、自分自身の中に「訓練」というものが根付いたことが、一番の収穫だったように思う。
人生は訓練なのだ。継続的に練習し、体得する。生きている限りこのサイクルは続いていくのだと実感した。そして、面接でこの考えを力説したところ、とても反応が良かった。

 会社に入ってからも訓練の連続だ。まずは新人研修と言われる訓練。ここでもビジネスマナー、そして仕事の必要な様々な知識を叩き込まれ、ロールプレイングを行っていく。あらゆる場面を想定して、より実践に近い環境の中で経験を積むことでスキルを上げ、現場に生かす土台を作るのである。他の会社で働いたことがないので分からないが、友人の話を聞く限りは、僕の会社は訓練が多いようだ。そして入社して半年が経つが、まだ現場に立ったことはない。

 ある日、けたたましく警報ベルが鳴り響いたことがある。社内アナウンスで「火事です。火事です。3階の食堂で火災が発生しました。落ち着いて避難してください」と流れた。どうせ訓練だろうと思うかもしれないが、半年の間に避難訓練は5回ほど行われていて、その全てに事前に通知があった。この時の通知はなく、いよいよ本番が来たかと気合が入ったくらいだった。いつもの訓練通り、一番近い非常灯のあるドアへ向かい、押さず、走らず、しゃべらず、社外へ避難した。社員全員が段取りよく避難しており、また、会社の前で部署ごとにきちんと整列をしていた。僕自身、会社に入って初めて訓練が生かせた瞬間だと思った。
すると社長が出てきて、「これは訓練です」と言った。どうやら年に二度ほど、サプライズ避難訓練を行うらしい。ちょっとがっかりしたが、訓練通り行動できたことは自信にもなった。

 ある休みの日に僕は彼女とデートをすることになっていた。やはり社会人になってからは忙しく、2ヶ月ぶりに彼女に会えるので、とても楽しみにしていた。海の見えるレストランでイタリアンを食べながら、お互いの近況報告をしたり、最近ハマっているテレビや歌の話をしたりして、いつもと変わらず楽しく過ごしていた。彼女がトイレに立ったあと、テーブルの上の彼女のスマホが鳴り出した。画面に出ていた名前は「ナオキ」。僕の名前は「祥二」で、彼女はフルネームで「中田祥二」と登録していたはずだ。

 僕は迷わず電話に出た。
「・・・・」何も言わずに待っていると
「エミ?今日何時に家行ったらよかと?」博多弁でナオキが言った。
「あとでかけ直します」僕は静かに言って電話を切った。
 すると
「祥二、次どこ行くー?」とエミはトイレから笑顔で戻ってきた。
「別れよう」僕はエミに言った。
「ちょっと?どうしたの、急に??」エミは動揺していた。
「あとでナオキさんに電話しておいて。別れたよって」僕は会計を済ませ店から出た。エミは追ってこなかった。

 僕は駅に向かう道で、高鳴る気持ちを抑えようと深呼吸をしながら歩いていた。正直、興奮していた。誤解しないでほしいが、怒りからくる感情ではない。
 訓練通りに出来たのだ。ようやく、訓練を実践で生かすことができた。僕の会社では、彼女が浮気をした場合の訓練も行っていた。浮気相手と思しき男から電話があったら、迷わずに出て、「かけ直す」と告げる。そして彼女には「別れよう」と言う。「浮気をしたら即別れる」訓練通りだ。

 彼女と別れたので次の休みの予定がなくなり、久しぶりに大好きなプロレスを見に行った。しかも会社の優待券をもらえたおかげで、アリーナ1階の最前列に座ることができた。やはり日本のプロレスはいい。情緒がある、哀愁がある、趣がある。と、喜びに浸っていると、僕の注目カードが始まった。押しつ押されつつの攻防。ついに場外にまで飛び出してきた。すると僕の好きなレスラーが目の前に倒れ込んできた。僕は心配で彼の顔を覗き込むと、目がバチッと合い、「来い」と合図をされた。僕は一瞬身体に電気が走った。しかしそうすることが元から決まっていたかのように、僕はゆっくりとシャツを脱ぎ、リングに上がり、相手レスラーにラリアットをかました。それがキレイに決まり、会場がどよめいた記憶を最後に、そこから意識は途絶えた。

 気がつくと僕は楽屋に寝ていた。僕の好きなレスラーが「大丈夫か?」と聞きながら水を差し出してくれた。水を受け取り、一気に飲み干し、自分の身体の無事を確認し、「なんとか」と返事をした。


「お前、訓練通りだったぜ」
レスラーはそう言ってウインクした。
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プロフィール

まりお

Author:まりお
「“フリ”ライター」高島まりおです。

気になる方へインタビューし、記事を書いていきます。
その他、面白いこと、楽しいこと、興味あることを中心に、綴っていきます。

月一でインタビューイベントを開催しています!
「フリライターまりおの取材してるふり。」

イベントと記事(ブログ)連動していますので、こちらも是非チェックをお願いします。


目指すは…Sex And The Cityのキャリーブラッドショー!

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