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ノッティングヒルの芸人(後編)


それから1週間後、初めてのネタの打ち合わせの日がやってきた。


最初はやっぱり自己紹介だよね。わたしのことを分かってもらうために、簡潔、かつ明確に、を心がけて話すことにした。

小さい頃から漫才師になりたくて相方を探していたこと、だけど『これだ!』と思う人に出会えなくて今に至ること、そして、彼が本屋に来たとき初めてビビッときて、勇気を出して声を掛けたこと。もちろん、ノッティングヒルの恋人の大ファンだと言うことも。
改めてコンビになってくれた感謝も伝えると、彼は恥ずかしそうにモジモジして、頭をポリポリ掻き出した。

そもそもノッティングヒルの恋人好きのわたしが、なぜ漫才師になりたいのか、ということを補足しないとね。
ジュリア・ロバーツってそれこそラブコメの女王でしょ?彼女のラブコメでのテンポの良さって言ったら、本当に漫才とかコントを見ているみたいだな~って、ある日ふと思ったの。それに、彼女の持つセクシーさと可愛らしさ、ちょっとオーバーなリアクションと、たまに見せる「ヌケ感」みたいなのが最高のバランスじゃん!あぁなりたい!って。でもわたしはハリウッド女優として輝くことはできない、だけど、漫才師になってジュリア・ロバーツみたいな雰囲気をこっそり出すことはできるかもしれない、って考え方をちょっと変えてみたの。そしたら居ても立っても居られなくなっちゃって、自分でネタを書いてみたり、YouTubeで漫才やコントを1日中見ていたり、お笑いライブにも通ったり。あとは相方を探すのみだったんだけど、これが一番大変だったってわけ。

そしてようやく見つけた相方、彼の名前は、国尾 護(くにおまもる)。わたしが言うのも何だけど、ネタみたいな名前!と心の中でキャッキャしちゃった。
歳は30歳なんだって。10コも上なのに、年上に見えないんだよね。ちょっと頼りないし、フワフワしてる感じで、ペットみたいに首輪をつけていないといつの間にかどこかに行っちゃいそうな不安定さを持ってるんだよね。わたし的にはそこがイイ部分でもあるんだけど。
国尾さんは自衛隊になりたかったけど訳あってなれなくて、自衛隊オタク(ミリタリーオタク、ミリオタと言うらしい)として活動しているって話してくれた。きっと生まれつき身体が悪いとか、家庭の事情とか、そんな理由だろうと思って、気を使って詳しいことは聞かなかったけどね。自己紹介の最後に彼は立ち上がって、
「私もバディが見つかって非常に嬉しく思います。素人ですがよろしくお願いいたします。」
と軍隊仕込みの・・・あ、違うよね、正しく言うと、軍隊もどきのきれいな敬礼をして締めくくった。相方のことを『バディ』と言うのはちょっと違いますよ、とツッコミかけたけど、こんな国尾さんの良さ(面白さ)を大切にしていこうと、なんだかシャキッと気が引き締まったわけ。

すると、国尾さんはいきなり「私、ネタ、考えてきました」とカーゴパンツのポケットから、メモ帳を取り出してわたしに見せてきたの。さっと目を通してみたけど、南海キャンデーズさんとオードレーさんのもろパクリだった。南海キャンデーズさんは男女コンビで女性のほうが大きいから、わたし175センチ、彼162センチで、設定としては間違ってないんだけど、ネタまでパクっちゃアウトだよね。オードレーに関しては、わたしが「テーッス!」しか言わないから、残念ながら即却下。
国尾さんが言うには「自衛隊には模倣が重要」なんだって。確かに、諸先輩方の漫才を勉強したり、参考にさせてもらったりってのはあるけど、もろパクリはダメ、ゼッタイ。だけど初日からネタを考えてくるなんて、かなりやる気があるみたいだし、これからいい漫才ができるかもしれないって、ワクワクしちゃったのも事実。

目標とする漫プリ(年に1回開かれる漫才グランプリのこと)までは、あと8ヶ月。
それから、わたしがネタを作って、練習して、フリーのライブで経験を積んでいった。だんだん息も合ってきて、「色」と言うのが出せるようになった気がしていた。言い忘れてたけど、コンビ名は「アナ&スコット」に決めたの。お気づきの通り、ノッティングヒルの恋人でのジュリア・ロバーツの役名「アナ・スコット」から取ったのね。映画のウィリアムと一緒で国尾さんは、たまにフニャフニャした態度やネガティブになることもあったけど、その繊細さも大切にしようと思って、わたしがリードしてやってきたつもり。


そして迎えた1年目の漫プリでは、なんと準々決勝まで進んじゃう快挙!

まぁ、ビギナーズラックっていうのもあったのかな。フリーでやってる凸凹男女コンビっていうのも目立っていたみたい。そこまで進んだというのもあって、漫プリの後に、ある事務所からスカウトがあったの。国尾さんに相談してみたら「自衛官にも所属がありますからね。私は陸上自衛隊を希望しています」と訳の分からないことを言い出したから、わたしの判断で所属することに決めちゃった。その事務所は小さかったけど、わたしたちを積極的に売り込んでくれて、定期的なライブや営業(イベントとかに出ること)もさせてもらって、去年より自力ってのが付いた気がするんだ。


あっという間にやってきた、2年目の漫プリ予選。

去年の準々決勝も勝ち抜いて準決勝に進み、さらに、まさかまさかの決勝の舞台に立つことになった!!
決勝に残ったのは8組と敗者復活の1組。夢にまで見たあの舞台。

いつも感心するんだけど、国尾さんはどんな舞台でも全く緊張しない。わたしが舞台袖で「ドキドキするぅ~」って言ってると、「バディーがお互いを信頼し合っていれば大丈夫です」とまっすぐに目を見て、わたしに言ってくれる。頼もしいような、少しズレているような、でもその言葉でわたしの緊張がほぐれちゃうのが不思議なんだよね。


ジャカジャンジャンジャンジャン・・・・


入場の音楽が流れて、勢いよくわたしたちは飛び出した。


「はい、どーもぉ!!」


いよいよ4分間の戦いが始まった!


アナ&スコットのネタは、わたしの力強いツッコミと対照的な国尾さんのボヤキ。そして、芝居調で進んでいくストーリー性の高いコントよりの漫才、っていうのがスタイル。

勝負をかけていたわたしたちは、決勝の1回戦から鉄板ネタ「カッコいい男になりたい」を持っていくことにした。ライブでも営業でもよくやっていて、手応えもあって、わたしたちが間違えようもないネタ。もちろん少しアレンジはしているけどね。

「カッコいい男になりたい」国尾さんがまずは警官になろうとし、そのあとドラマのカッコいい名シーンを真似し、最後に本当になりたいものを宣言するという流れ。

ネタは順調に進んで、最後のわたしからのネタフリ、
「じゃあ、夢を語ってください!でっかい夢!カッコいい男なら夢を持っているはず!」

そして、国尾さんは「僕、夢は見ないタイプなので…」とボケる、そしてわたしがツッこむ!

・・・はずが突然、


「自衛官になりたいです」


ってネタと全然違うことを呟いたもんだから、わたしは思いっきりうろたえちゃって、
「え・・・ちょっと・・・ネタ違いますよ。こ、こ、こ、ここへ来て緊張って、おそ!」
って何とかフォローしようとしたけど、お構いなしに国尾さんは急に神妙な面持ちで語りだしたの。

「君にバディを組まないかと声をかけられたとき、私の夢である自衛隊を捨てられるんじゃないかって、そう思ったんです。そもそも、私は学歴も仕事もないし、誰かに指示されないと何もできない人間で、自衛隊の格好をするのが精一杯で・・・。」

「それ、結構勇気いると思いますけど。」これは素でツッコんだわたし。

「でも、私だってなりたくてこうなったわけじゃないんです。
大学に行かなかったのは、勉強をしなかっただけなんです、とにかく勉強が嫌いだったからです。
体だって丈夫じゃないですよ。生まれつきとかじゃなくて、動くのがだるいだけなんです。
それに、親が・・いや、ママが過保護だったらいけないんです。仕事しなくてもいいって言うんです。だからです。」

って本当に最低のヘタレ宣言をしたら会場にドッと笑いが起きた。
だけどわたしは笑いが起きたことなんてどうでもいいくらい、国尾さんの発言が頭に来て思わず、

バチンッ!!

生まれて初めて平手っていうのをお見舞いしたら、2mくらい吹っ飛んだ。会場はさらに笑いに包まれた。
国尾さんは「オヤジにもぶたれたことないのに!」って顔で頬に手を当ててわたしを見つめていたから、さらに怒りが増して、

「いい加減にしてください!みんな辛いんです、苦しいんです。それでも自分に喝を入れて、勉強したり、鍛えたり、働いたりして一生懸命生きてる!どうして、今までそんなことも気づかずに生きてきたんですか。この2年は何だったんですか。あなたを見込んだわたしがバカみたい・・・しかもどうしてこの大切な舞台でそんなことカミングアウトするんですか。やっぱり自衛隊になりたいなんて、今頃言うなんて・・・今までの時間、返してくださいよ・・・」

わたしは座り込んで泣いてしまった。もう決勝の舞台とかどうでも良くなってたから。会場はシン…となっていた。
悔しさと情けなさ、不甲斐なさ、恥ずかしさ、苦しさと、わたしの持つすべての負の感情が体中を覆っていて、もう力が入らない。

たしかに国尾さんはテンションの上がり下がりが激しかったし、病気を理由にネタ合わせに遅れることもあった。自分に甘いなって思うこともあったけど、それでも2人で漫才していると楽しかったし、いいコンビになってきたと思っていたのに・・・

すると国尾さんが「でもどうせなれないから安心して下さい。もう31歳だし、学歴も経験も資格もない私は、自衛隊になんてなれませんから。」とまたヘタレ発言。この際だから、わたしはずっと彼に対して思っていたけど言えなかったことを、ついに話すことにした。

「自衛隊になら、なれますよ」

国尾さんはたまに「やっぱり自衛隊になりたいなぁ」と呟いていた。でもわたしはコンビとして活動していきたいから、聞かないふりをしていた。たくさんネタ合わせや仕事をして力をつけて、何かの漫才コンクールで優勝できればその気持ちもいつかなくなるだろうと思っていたから。
でも半年くらい前にわたしは偶然ネットで「予備自衛官補」という制度があるってことを見つけてしまった。絶対に、国尾さんに気付かれてはいけないと思って、そのことを隠してここまで来たんだけど、言ってあげなきゃいけないタイミングが遂に来たんだね。

「予備自衛官補」というのは、日本国籍のある155㎝以上で34歳未満の人であれば誰でもチャレンジできるもので、筆記試験、口述試験、適性検査、身体検査にクリアすれば合格となる。3年以内に50日訓練があって、1日当たりの手当は7900円。年に2回募集があると自衛隊のHPに書いてあった。

この説明を一通りしている間に国尾さんの眼にみるみる光が差していくのが分かった。
そう、私のやっていることは間違ってない・・・
私がそうだったように、夢は挑戦しないと悔いが残るんだから。

「私、それになります!!」

今度は意思のこもった力強い声で、国尾さんは宣言した。

「でも、君は・・・?」一応、わたしのことを気に掛ける余裕はあったみたい。

わたしはこの返事が国尾さんへの最後の言葉になると直感的に分かった。

国尾さんをまっすぐに見て言った。「いいの、行って。」
でも、その先は目を見ることができなかった。国尾さんに背を向けて、言葉を続けた。


「覚えておいて。わたしはお客さんの前に立って、みんなに笑ってほしいと願っている、ただの女芸人だってことを。」


そう、このセリフは、ノッティングヒルの恋人での一番大好きなシーンのオマージュ。


「I'm also just a girl, standing in front of a boy, asking him to love her.」
(私だってただの女の子。男の子の前に立って、愛してほしいと頼んでいるの)


もちろん、気持ちはジュリア・ロバーツ。
愛した男を、いや、愛してないけど、相方に選んだ男に振られた切なさと辛さを押し隠して、必死に笑顔を作って彼を送り出すわたし。決めゼリフを言い放った後は、目に涙を浮かべたまま、ゆっくりと彼のほうに顔を向けたら・・・


いないじゃん!!


わたしの決めゼリフの間に、国尾さんは勢いよくステージを降りていたようだ。
そこでふと思い出した。


ここ、漫プリ決勝の舞台だよね!?!?

やっばーい!!


でもなぜかお客さんは優しい笑顔でわたしを見ていた。
わたしは90度よりももっともっと深い、地面に頭が付くぐらいのお辞儀をしてから、舞台を後にした。

こうして、アナ&スコットの漫プリは、終わった。
ネタのようでネタでないサプライズ解散を生放送の漫才コンクールでしてしまったわたしたち。ある意味、伝説を作ったって言えるよね。本来であればネタの時間が過ぎたら強制的に終了になるのがルールなんだけど、番組プロデューサーがGOを出して続けさせたと後から聞いた。

国尾さんは漫プリの後、忽然と姿を消した。
あれから1ヶ月、元相方の国尾護くんは、「国を」「守る」自衛隊になるために勉強に勤しんでいると、そう信じたい、いや、信じてる。

一方、わたしは。
漫プリでの失態とも言えるネタが噂となり、どうしてか役者としての仕事が増えたのには、自分が一番驚いてる。あの、涙ながらの訴えがお茶の間の心を揺さぶったんじゃないかってマネージャーは言ってたけど本当かな。
実はアナ&スコットの解散劇はすべてネタで、演技だと思っている人が多いと2chに書いてあったのを読んだけど、今となってはもう何でもいいやって思ってる。


そして今日は、来年出演する舞台の記者会見。
たくさんの報道陣が、漫才コンクールから誕生した、ある意味シンデレラとも言える呂別 樹里亜という女優、とここでは言わせて、に注目している。

会見での質問は、わたしに集中した。
最初に指名された記者がまずはこう聞いてきた。「お笑い芸人としての活動は?」
「お笑い芸人としての活動は一旦お休みします。今はこの舞台に集中したいので。」
また別の記者が指名された「元相方さんと連絡は?」
「彼とは友達です。あれから会っていませんが、そう、思いたいです。」

すると真ん中の後ろの方にいた記者が手を挙げた。そして、こう聞いた。
「状況が許すなら、その元相方と、再びバディを組む可能性はありますか?」
バディ・・・なんだか懐かしい響き。こんな質問をしてくるなんて、どこの記者だろう・・・
不思議に思って、目を凝らしてその記者を見ると、そこには見慣れた顔、国尾護の顔があった。私はこう答えた。
「そうなることを望んだ時期もありましたが・・・ムリです。」
ふつうは記者は1つの質問で終わるんだけど、彼は、さらに続けた。「でも、もし・・・」
「もし・・・?」思わずわたしは聞き返していた。

「よく考えた末、その人物が、、、国尾・・・そう国尾さんが、やっと気づいたら?自分は大バカでドアホだと。そして、ひざまずいて、バディをやり直したいと言ったら・・・やり直しますか?」

わたしは・・・どうしたい?自分自身に問いかけた。
わたしの夢は・・・・そう!漫才師なんだ!!

答えは明白。

「えぇ、やり直したいです!!」

彼は「とってもいいニュースです!」と言って、さらにもう一つ質問をしてきた。


「じゃあ、最後にもう一つ。お笑い芸人としての活動はいつまで?」


「永遠に。」


(読者の皆さんの脳内で、エルビスコステロの「She」を流してください♪)



~Fin~
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ノッティングヒルの芸人(前編)

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わたしの名前は呂別 樹里亜(ろべつ じゅりあ)、19歳。


ママがこの世で一番好きな映画「プリティ・ウーマン」のヒロインを演じたジュリア・ロバーツにちなんで、わたしに『樹里亜』って名付けたんだって。その名前に、日本に10人くらいしかいないって聞いた、珍しい名字『呂別』を並べて英語っぽく読むと、「ジュリア・ロバーツ」と聞こえなくもないでしょ。

この名前とジュリア・ロバーツ並みの高身長のお陰(彼女と同じ175センチなの!)で、わたしは大学の友達から「ハリウッド」って呼ばれているんだけど、実はそのあだ名、結構気に入ってるんだ。彼女を意識して前髪はセンターで分けて、大きめのパーマをかけてるんだけど、誰かからも似てるねって言われたことなんてないから、ただの自己マンなんだけど。


ママが最初に見せてくれた映画は「ノッティングヒルの恋人」、これもジュリア・ロバーツのヒット作。
そしてわたしがこの世で一番好きな映画。

いくら名前が似てたって、身長が同じだって、髪形を真似したって、ハリウッド女優になれるわけもなく、大学での成績は中の中、見た目も中の中の普通の女の子(少し謙遜w)。ま、仲間内では盛り上げ役だから、映画で言うウィリアム(ヒュー・グラント)の妹ハニーってところかな。詳しくは映画を見てね。

でも、これだけは映画と同じかもしれない。
「自分だけを必要としてくれる、たった一人の男性を探し求めている」ことはね。


本屋でアルバイトすることにしたのは、もちろん映画に影響されてのこと。
映画のあらすじでは、ジュリア・ロバーツ演じるハリウッド女優アナ・スコットの恋人となるウィリアムが本屋のオーナーだから、ここにいたら何だか運命の人が現れる気がしてワクワクする。男女の役回りは逆になっちゃうけど。

とっても暇な本屋だから、わたしはいつもノートに理想の相手像を書き連ねているの。

たくましい、誠実、ポリシーがある、つかみどころのない人・・・こんな人現れる訳ないかぁ、なんて書いては消して、ため息をふぅ~ってついていたら、店長に「恋でもしてるのか」って心配されたことがあったっけ。広い意味で考えるとそれは間違いじゃないんだけど、わたしが追い求めている人は、そんな簡単なものじゃない。

なぁ~んて日々が続くと思っていたら、運命は突然訪れた!!


その人は、お店に入ってきたとき、どんなハリウッドスターよりも輝いて、魅力的に見えた。


彼は自衛隊っぽい迷彩柄のTシャツとダークグリーンのカーゴパンツに白いスニーカー、つばに葉っぱの模様と正面に鳥のマークみたいなのが入った黒いキャップを被って、石原裕次郎がしていそうなサングラスを掛けてたから、明らかに店内で目立ってた。それに歩くときはやたら動きが早いし、曲がるときはなぜか90度に進んでいくから、絶対に普通の人じゃないと思ったの。
しばらくして彼が「宣戦布告」、「亡国のイージス」、「天空の蜂」をレジに持ってきたとき、あたしは彼をじーっと見つめちゃった。でも彼はサングラスをしているから、表情が読めない!なんてミステリアス!!
テンションは上がっていても仕事はちゃんとしなくちゃ店長に怒られちゃうから(割と冷静w)、きちんとお会計をして、お金を頂いてお釣りを渡したら、彼は「ありがとう」と小さな声で言って店を出ていった。


彼が店を出て行って、5秒くらいボーっとしちゃったけど、ハッと気付いた。


「このチャンスを逃す手はない!」って。


「ノッティングヒルの恋人」みたいに本屋で出会ったわたし達が再会するのは、あの名場面、曲がり角でオレンジジュースをかけちゃうハプニングなんてどうかしら。きっと彼は駅に向かうはずだから、先回りして角で待ってみよう。ジュースを買っている時間はないから、お昼に買ったコンビニのコーヒーを持ってわたしは店を飛び出した・・・


ダッシュしたのなんていつ振りだろう。何とか先回りできたのはいいけど、息が上がりすぎて「肩で息をしている」っていう比喩を体現しちゃってるわたし。呼吸を整えながら彼を待った。
そして、彼がやってきた瞬間・・・・


ドンっ!


「あ、すみません!!コーヒーかけちゃった。どうしましょ~」って走りながら考えていたセリフを発したら、思ったより自分が大根役者でビックリ。
「大丈夫です、これ防水なんで」って彼が言うから、やっぱり自衛隊の方なのかなと思って、スゴいですね、って言ったら、
「ついでに防寒、防臭を施し、更には防弾もできます」って言ってきたの!さすがに薄っぺらいTシャツが防弾なんて信じられなかったから
「防弾はウソ、ですよね?」って突っ込んだら、失礼します、って帰ろうとする彼。まさか図星?いやいや防弾とか防水はどうでもよくて、言わなきゃいけないことがあるでしょ、わたし!

彼が行こうとする方向を慌ててとうせんぼして、ストレートに思いを伝えることにした。

「あ、あの・・・突然ですが・・・」思い切り息を吸って、さぁ言うぞ!と思ったら彼が大声で、
「突然!!」って叫んで、急に屈んで小さく丸まっちゃったの。わたしは何だか恥ずかしいやら、ワケわかんないやらで、どうしたのか尋ねてみたら、「突然の奇襲に備えての防御です!」って。んなわけないでしょ。

わたしに攻撃する意思がないことを丁寧に伝えたら、ようやく普通の立ち姿勢に戻ってくれてホッ。とにかく早くこっちが何か言わなきゃ、彼は何を言いだすか分かんないから、勢いで言っちゃった・・・


「相方になってください!わたし、あなたと漫才コンビになりたいんです!」(言えた!)

「断る!」

「ですよね・・・やっぱり、お仕事・・・自衛隊の方ですよね」(ここは少し引いてみて…)

「異なる!」

「え!じゃあその格好は?」(なんだこの人!やっぱり面白い!!)

「こだわり!」

「趣味ってことですか!?」(ヤバい!面白すぎる!)

「失礼します!」


と、テンポの良いやりとりの後、彼はものすごく素早い動きで駅の方へ歩き出して行っちゃった。

さすがにいきなり『漫才コンビを組んでください』は無謀すぎたかなぁ。でもこのチャンスを逃したら、こんな面白い人にはもう出会えないかもしれない。やっぱりもう一度お願いしてみよう。せめて、もう少し話を聞いてもらおう。

わたしは、全力で彼を追いかけた。そして彼の見えなくなった角を曲がろうと体を傾けた瞬間・・・


ドンっ!


誰かとぶつかって、わたしはその人の持っていたコーヒーで服がビチョ濡れになった。急いでる時に限って何でなの!!わたしは思わず「ちょっと、どうしてくれるんですか!」と文句を言っちゃった。すると、そのぶつかってきた人が、
「あ、すみません。よかったら僕の家そこなので、服乾かしましょう」って何か聞いたことのあるセリフを棒読みで言ってきた。あれ、これ何のセリフだっけ。それにこの声はなんだか聞き覚えのある声。

顔を上げると、さっきの彼が目の前に・・・。

彼がいたことも衝撃的だったけど、ぶつかってコーヒーをかけてきて、さらに家に来て乾かそうって、そう、これはまさにノッティングヒルの恋人の名シーン!彼も映画のこと、知ってたんだって嬉しくなっちゃった。

「映画、知ってたんですね」って聞いてみたら、彼はいきなり、

「姿勢を取れー!!」って、ほふく前進の構えを歩道でし始めた。わたしが戸惑っていると、目で「お前もやれ」って合図を送ってきたから、わたしも彼と同じように道に寝そべった。

そして彼の「進めー!」の掛け声で2人でほふく前進を開始した。

3mくらい進んだとき、彼がこう言ったの。

「バディを組めぇ!」

え、なになに!?この発言って、コンビ結成ってことだよね!?
もう嬉しくてテンションアゲー↑ってなっちゃって、彼と一緒に10mくらいほふく前進したら、通行人から思いっきり痛い目で見られるし、履いていたデニムがボロボロになっちゃったけど、全然平気だった。きっとアドレナリンが大量に分泌されてたから。

それから次に会う約束をして帰ったんだ。



to be continued....

テーマ : 作家活動
ジャンル : 学問・文化・芸術

髪を結うように縁を結う人(音楽プロダクション代表 中澤樹理)

今回の取材対象は、音楽プロダクション「J-collection」代表 中澤樹理さん

 少し失礼かもしれないが、中澤さんには、まさしく「駆け出し」という言葉が当てはまる。
2015年4月8日に音楽プロダクションJ-collection(以下Jコレ)を設立。そもそもJコレ設立は自分の人生の計画になかったと言う。生まれは高知、土佐っ子である。

 高校を出て大阪の美容学校に進学。卒業後は同学校で美容職に就くことになった。一時期は美容の仕事を離れていたが、再びその世界に舞い戻るために選んだ場所は北新地のセットサロンだった。いわゆる、ホステスの髪をセットする仕事である。
 ホステスとは基本的には美しくあることが求められる職業であるから、こだわりも強かったそうだ。いつもと1ミリでも大きさが違うと「直して」と指示が入る。一番神経を使うのは、ママさんである。新人が髪を触ることを嫌がる方が多く、セットに入ろうとすると「触らんといて」と言われるそうだ。しかし中澤さんは諦めなかった。他のホステスさんをセットしているところを見せ、どうしても時間がない時に担当して少しずつ信用を得るために必死で働いていると、ある時、ママ自ら「やって」と頼んでくれた。この認めてくれる瞬間がやりがいにも繋がっていたそうだ。

 5年ほどセットサロンで働いていた中で、仕事の幅を広げようとフリーでも動き出し、とある芸能事務所でヘアメイクの仕事をすることになった。新しい環境と仕事にも慣れてきた頃、事務所内で大きな問題が起こった。代表以外の関係者が、方向性の違いにより全員離れる事になってしまったのである。もちろん所属アーティストは残ったまま。中澤さんはアーティスト達のために講師を手配したり、レッスンを見たり、ヘアメイクの仕事の領域をはるかに超えていたが必死で動いた。1年ほどその状態が続いたが、遂に事務所を離れることを決めた。

 中澤さんが言うには、この出来事は「導き」であった。「運命のイタズラ」という表現もしていた。ただ目の前にいる未来ある若きアーティストをどうにかしてあげたいという思いから、2日後にはJコレを立ち上げていた。そんな状態で始まったので、まさに見切り発車で駆け出したと言える。
 もちろん何をしたらいいのかも分からない。しかし不思議なことに、「縁」を大切にし、気持ちで動いていく中で、音楽プロデューサーやレッスン講師など第一線で活躍している方に力を借りることができ、徐々に支援者も増えて、体制が整えることができたそうだ。

『私は“動く”ことと“出会う”ことはできる』

と言う中澤さんは、ライブハウスを紹介してもらったり、人と会う機会を増やしたりして、とにかく精力的に活動している。

『そういう意識でいると常にアンテナが立つので、普段だったら行かないような場所が気になって足を踏み入れたんです。そしたらそこに音楽関係者がいたことがありましたね』これも「導き」の一つであろう。

自身が「知らない」ということを素直に認め、「自分に出来ること」と「周りにやってもらうこと」を明確にした上で行動しているからこそ、うまく進んでいるように見えた。

『自分と関わってきて下さった方で、どれくらいのことができるかを楽しんでいこうという感じですね。これから先は色んな方に協力してもらいながら、模索していこうと思います』と中澤さんは言う。

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 しかし私にはここでどうにも解決できない疑問が浮かんだ。

-なぜ、そんなに、都合よく、関係者に出会うのか・・・?

 音楽に精通していたわけでもなく、自身もそこまで興味があったわけでもないのに、楽曲提供をしてくれる作曲家や、講師としてプロのダンサーやボイストレーナーに出会うものなのだろうか?

 聞いてみると、ビックリするくらい軽い答えが返ってきた。

『道歩けば人に出会うっていうノリですね』

 そして、この業界に携わることになったきっかけは、「天六(天神橋筋六丁目)を歩いたこと」だと言い出したのだ。
 ある日の夕方、中澤さんが天六を歩いていたらアメリカ人に「僕の英会話教室に来ないか」と勧誘された(それはおそらくナンパだと思うが)。それから何度かそのアメリカ人と会い、友達になった。彼は日本に来た理由を「僕はこういうことがしたい」と、あるDVDを見せてくれた。それは「質問型営業」という教材(日本製)で、その中で講師をしている男性の風貌がやけに印象に残っていた。
 しばらくして、知人が紹介してくれたセミナーはなぜか聞いたことのある内容と見たことのある講師。気になったのでセミナーに行ってみると、アメリカ人が見せてくれたDVDに出演していた講師による、質問型営業のセミナーだったのだ。そこで出会ったのが、先に述べた音楽事務所の代表というわけである。

 つまり、天六でアメリカ人に出会ってDVDを見ていなければセミナーに行くこともなく、事務所の社長に出会うこともなかった。この世界の扉を開いてくれたのは、あのアメリカ人なのだと中澤さんは話す。

 納得いくようないかないような話だが(笑)、中澤さんはどんな小さな出会いでも大切にし、自然と人との縁を繋いでいけるからこそ、思いもよらない状況に置かれても周りのサポートが得られるのではないかと感じた。現に、その質問型営業の講師の方(社長でもある)とは、セミナーをきっかけに親交を深め、可愛がってもらい、とてもお世話になっているそうだ。

 実は、中澤さんは私と同い年であった(お互い独身)。なんだか途中から女子トークのようなノリになっていたことは否定できない。30過ぎの独身女性ともなると、仕事に生きながらも、趣味はきちんとあるものだ。
 中澤さんの趣味は神社巡り。なんとも渋い。ハマりすぎて神社検定を受けるほどにまでなった。おすすめの神社を聞くと、出雲大社から北西に8キロほどのところにある日御碕(ひのみさき)神社。ここにある日沈宮には天照大神が祀られており、「伊勢大神宮は日の本の昼の守り、出雲の日御碕清江の浜に日沈宮を建て日の本の夜を守らん」(伊勢神宮が「日の本の昼を守る」のに対し、日御碕神社は「日の本の夜を守る」) と言われている。
 ここに初めて訪れたとき、景観や空気の神々しさとオーラを感じたそうだ。神社は森に囲まれていて、少し低い位置にあるという。またここには、社務所には置いていないため、こちらからお願いしないと買えない砂のお守りがあるという。痛いところに触ると治るとか…?http://matome.naver.jp/odai/2138917736492416501

『神社があるところに歴史があって、手を合わせて「ありがとうございます」とお参りすると感謝する機会も増えますしね。もし将来、何もすることなくなったらボランティアで神社ガイドしてもいいかな』


 縁を大切にして、感謝の気持ちを持つ。


 当たり前のことにように思うが、行動するのは容易くない。ましてやその「縁」が故に、Jコレ設立にまで至るなど私には想像できない。中澤さんからは、「大変だった」「困った」などの苦労話は一切出なかったが、アーティストを抱え、責任を負うことは簡単なことではない。他人の人生をも背負うことになるし、利益を追求することも必要であるから、周りに見せていない苦悩があるのではないかと思う。
 そんな中で、常に縁と感謝を大切にできる中澤さんに対して、同じ女性として、同い年の仲間として、尊敬の念と少しの羨望を抱いた私であった。

 現在もヘアメイクの仕事をしつつ、代表としても動いている中澤さん。髪を結うように、人との縁も結っているように思う。髪の毛にも色や長さ、質の違いがあり、それぞれに適した対応を選び、形にしていくことは難しい。人間なら尚更難しい。しかし、中澤さんはこれまで培った経験と、持ち前の明るさと人柄で、髪も縁もなめらかに結っているのである。


J-collectionは4月8日で1周年を迎える。
大きなライブハウスでイベント開催予定とのことなので、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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J-collection 
HP http://gingerj7days.wix.com/j-collection
Facebookページ https://www.facebook.com/%EF%BC%AA-Collection-352350648291197/

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第7回「フリライターまりおの取材してるふり。」

いよいよ年内最後となりました!

5月末に一回目を迎えてから、あっという間に7回目。


手探りで始まった初回から、
敏腕ディレクター兼デザイナーの強力な協力を得て、
facebookページや、イベントCM動画、フライヤーができ、
回を重ねるごとに新しいことにチャレンジができるようになりました。


ロゴ

https://www.facebook.com/marioshoten/
「いいね!」がまだの方は是非ともよろしくお願いします!


3回目からは、フライヤーができ、
イベントではプレイベントとして麻利央オリジナル短編をお届けすることにしました。

プレイベントは初めの2回は朗読スタイルでしたが、
3回目(イベントとしては5回目)から、芝居スタイルに変えました。

そして、明日のイベントで、5本目の作品となります。


フライヤー

新しい試みとして、今まで一人で演じてきたストーリーを
二人芝居でお届けさせていただくことになりました!


その相方は、松竹芸能俳優部に所属し、
現在は松竹新喜劇でも活躍している、竹本真之くん!

短いストーリーではありますが、とても楽しみ&ドキドキです(*゚▽゚*)


そしてメインのトークライブのゲストは、元自衛官の三好さん。

どんなお話が聞けるかとても興味津々です!


第7回
『フリライターまりおの取材してるふり。』

12/16(水)@なんば紅鶴

19:30~プレイベント
二人芝居「ノッティングヒルの芸人」
役者ゲスト:竹本真之(松竹芸能/松竹新喜劇)


19:45~トークイベント
ゲスト:元自衛官 三好さん




それから、わたくし高島麻利央が出演させてもらった音声活劇のCDも購入できますよ!

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※写真は私ではありません。

●2016年1月8日発売
『音声活劇 新撰組異聞 壬生狼散華』
『新撰組異聞 壬生狼散華 歌唱並巻』
各¥1,000(税別)


お待ちしておりますヽ(・∀・)ノ


フリライターまりお

北斗の拳的 弁護士尾崎博彦


紅鶴の店長、人生さんから今回のゲストを「マンガ好きの弁護士」と紹介されていたが、今回のインタビューのほとんどは「弁護士」としての尾崎博彦先生の顔だった。しかし、トークの後半で突然出た『北斗の拳』の“ある名言”が私の頭から離れず、今回の記事のタイトルとサブタイトルを北斗の拳から頂いて書いてみることにした。名言の本当の意味と、インタビューの内容は若干ズレているかもしれないが、そこは目をつぶって読んで頂きたい。


1)この傷とともに おまえの心を この俺の心に刻もう (ケンシロウ)

弁護士と聞くとまず思い出すのが弁護士バッチである。それを身につけているだけで世間は一目置く。弁護士バッチの正式名称は「弁護士記章」と言い、裏側には弁護士の登録番号が記載されていて、身分証明ともなる。尾崎先生は、そんな大切な弁護士バッチを2度もなくしていたという強者であった。

日弁連のHPによると、『弁護士となる資格を有する者は、入会しようとする弁護士会を通じて、日弁連に弁護士登録を請求し、日弁連に備えた「弁護士名簿」に登録されることによって、弁護士となります。(弁護士法8・9条)また、登録によって弁護士となった者は、弁護士法の規定により登録と同時に当然に日弁連の会員になります。(弁護士法47条)』とある。

各都道府県に弁護士会が1つずつ(東京は3つ)置かれていて、強制加入団体とされている。もちろん入会金・会費が必要だ。最初のバッチは弁護士として日弁連(日本弁護士連合会)に登録されたときに、無料で貸与される。(弁護士登録を抹消する時には返却しなければならないので譲渡ではない)

先生は無くした時、弁護士会に紛失届けを提出した。するとFAXで返信が来て、「今後管理に気をつけるように!」と怒られたそうだ。弁護士バッチの再交付には1万円ほど払わなければならず、それが2回なので2万円の出費をしたことになる。さらにその失態を突きつけられるのは再交付されてからだ。バッチの裏には、登録番号だけではなく、最初なくした時は「再1」、2度目には「再2」と付け足されていた。

無くしたというその事実は、バッチの裏だけではなく、心にも深く刻まれるのだ。


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2)我が生涯に 一片の悔いなし!!! (ラオウ)

尾崎先生は中学生くらいから「弁護士になる」と言っていたが、どんな仕事なのかは分かっていなかったそうだ。周りの人たちがその言葉を聞いて、「弁護士になるなら法学部に行かなきゃいけないよ」と言うので、司法試験に強いと言われている大学へ進学した。しかし、東大や京大に行くような天才的な頭脳を持つ人と比べたら、いくら司法試験に強い大学とは言えレベルが劣っていることに気付いたと言う。

「そんな人たち以外は基本努力です。時間をかけて一生懸命勉強したら司法試験は受かります。覚えたらいいわけですから。スポーツだったらいくら頑張っても才能だから限りがある。でも、司法試験は勉強で積み重ねをしたら何とかなるので、僕にも行けると思いました。いろんな情報を素直に聞いて、やるべきことをやっていたらある程度行けますよ」
そうして先生は25歳の時に、5回目の試験で合格。現在は法科大学院が設けられ、制度も変わっているが、その当時は年に1回の一発勝負であった。先生は大学卒業後大学院へ行き、そこで3年間試験勉強をするという道を選んだ。教授に気に入ってもらい、指導を受けるという要領の良さも発揮した。一応伝えておくが、試験内容は教えてもらっていないとのこと(笑)。

その後、司法修習を受けて、弁護士、裁判官、検察官を選択することとなる。検察官と裁判官は相手側も採用の有無を決められるため、修習生時代の成績が影響すると言う。当時は希望が叶うことが多かったそうだが、現在は人数が増えているため、狭き門となっている。修習が終わったら、国家試験である二回試験(司法修習生考試)を受けるのだが、弁護士の志望者はこの頃には就職先が大抵決まっている。裁判官や検察官になる人は決められた配属先へ行くことになる。

尾崎先生の弁護士人生は、心斎橋にある事務所で始まった。バブルが弾けた後ということもあり、比較的のんびりした事務所だったと言う。駆け出しの頃は事務所から割り振られた様々な仕事をこなした。基本的には一般民事がほとんどで、銀行からの相談にも対応した。与えられる仕事はボスの気分次第であったが、色々な案件に触れたことで経験を積むことができたそうだ。そのボスからいきなり「そろそろ独立せえへん?」と言われた。先生は当時何も考えていなかったそうだが、「そう言われるなら、しようかな」と思って独立した。33歳の頃であった。

そう決めた尾崎先生の生涯に一片の悔いもないはずだ。


3)悪党の泣き声は聞こえんな (ケンシロウ)

尾崎先生が多く対応したのは消費者保護関係だった。今日でもよく聞く、キャッチで騙されたり、訪問販売で高額商品を買わされたり、と言った類のものだ。今では「クーリングオフ」や「マルチ商法」と聞けば、その言葉の意味を理解できる人は多い。しかし当時はその言葉さえほとんど知られていなかった。かつては消費者被害に関する法律は「訪問販売法」と呼ばれていたが、現在は「特定商取引に関する法律」となって訪問販売等を規制している。というのも現代は訪問販売だけではなく、電話やインターネットをはじめ、その方法が多様化しているからだ。
例えば「布団のモニター商法」。高級布団を買って、毎月その使用感や意見を提出するとモニター料が2年間に渡って支払われる。布団は20万以上する高額商品なので、購入の際はクレジットを組むことになるが、モニター料から回せば損することはなく、最終的に儲けが出るという触れ込みだ。しかし、そんな会社は早々と潰れてしまい、クレジットのお金だけが消費者の手元に残ってしまう。この手の大量消費者被害が15年くらい前に全国で多発していたそうだ。
結局、得しているのはクレジット会社で、販売会社と結託して行っているのである。この商法を野放しにすることが出来たのはクレジット会社であり、このローンは支払う必要がないのではないか、と弁護士団を組んで全国で裁判を起こした。大阪だけでも何百人と被害にあった人が押し寄せたという。

「僕はクラブ活動みたいなのが好きだから、弁護士団に入って、ああでもないこうでもないと話していました。事例を弁護団で議論していると、最終的に法律の不備が見つかり、整備されてきた部分はあります。実際に事件も減ってきましたね。」

そういう背景があって、現在、法律が整備され、啓蒙活動も進んだというわけだ。とは言ってもそのような商法は手を変え品を変えて現れ、全てが無くなることはない。私たちも積極的に情報収集し、対策を取っていく必要があると感じた。そこで、どんな人が騙されやすいかを尋ねると、
「割と自分は騙されないと思っている人が引っかかりやすいですね(笑)。あと、年を取ると心が弱くなるというか、精神的な負荷に耐えにくくなるんです。それに中途半端にお金も持っているでしょ(笑)。危ないなと思ったら、僕のところへ来てください。」

尾崎先生はどんな悪党も蹴散らしてくれるに違いない。


4)行くがいい。オレの心はいつも おまえのそばにいる (ケンシロウ)

 もちろん刑事事件も受け持つこともある。尾崎先生は国選弁護人の登録をしており、当番の割り当てがあってその日の18時までに連絡があれば対応しなければならない。(取材の日、17時50分に連絡があったそう)

※国選弁護制度
国選弁護制度とは、刑事事件の被告人(起訴された人)及び被疑者(刑事事件で勾留された人)が、貧困等の理由で自ら弁護人を選任できない場合に、本人の請求又は法律の規定により、裁判所、裁判長又は裁判官が弁護人を選任する制度

平成21年5月に始まった裁判員裁判の事件も対応した。2年ほど前に起きた殺人事件で、被告人の年金を遺族に対して支払うことを約束させた。命は返ってこなくとも、少しでも被害者に対し慰謝するための処置をするのも弁護士の役割だ。殺人未遂に至っては様々なケースがある。飲酒による精神膠着や喧嘩から起こった過剰防衛など、減刑する材料で弁護するが大抵は通らない。しかし、中には本当に冤罪もある。嵌められた可能性もないとは言い切れないため、弁護が重要となる。
痴漢については冤罪も少なくないという。被害者が仕込んでいる場合や単純な間違いということもあるので、神経質になるそうだ。被告人が犯行を認めている場合でも弁護が求められる。被害者側の意見ばかりを聞くのではなく、加害者とされている人の言い分も聞かなければならない。もしかすると痴漢していないかもしれないし、していたとしても、罪を償わせる必要がある。被告人の立場に立った適切な対応が問われる。

刑事事件では弁護人をつけることが義務付けられている。犯罪というのは、社会の観点から見て、その行為が許せるかどうかで刑罰が決まる。つまり、国家が決めるわけだ。極端に言ってしまうと、被害者がどう思うかは二の次であるし、被害者がいない犯罪だってある。被告人とされる人間にも言い分もあるだろうからと弁護人を付けるのが国選弁護制度である。刑事事件である以上、死刑の可能性もある。だからこそ、言い分をきちんと聞く立場の弁護人が必要なのである。
一方、被害者は基本的に被害の回復がしたいと思っている。そのために、自分でやるか、他に窓口を作るかは任意(自分)で決めることができる。被害者が生きている(被害が残っている)、もしくは死亡している場合は残された遺族がどうしたいかというのが問題となる。

「ほとんどの裁判は法律を当てはめてハイ終わり、という形にはならない。ほとんどは和解なんです」
と先生は言う。裁判所の本音を言ってしまうと、『判決は書きたくない』のだそう。お互いの言い分を考慮して、事件を分析した上で、○○だから××と理屈をこねて判決文を書くのは非常に難しいのだと言う。

「お互いの言い分を聞いていると、ここらへんで落ち着けたらどうかな?と別の視点が出てくるんです。どっちの立場だったしても弁護士同士で感覚的に分かって、この辺で手を打ちませんかとなります。こういう場合は理屈がいらないんです。裁判所で和解調書をきちんと作るから、判決と同じ効力があります。そういう形は多いですね。」

弁護士のもとに訪れる相談者には言い分がある。
「『この点とこの点が違って、対立はここですね、ここで歩み寄りができなかったら裁判ですね』と言うように、内容を聞いて、折り合いが付きそうだったら相手方を説得してみましょうという方向で話をします」

尾崎先生は話し合いを一番に考えている。先生の心はいつでも相談者のそばにいるのだ。

また、先生は法律と弁護士の役割をこのように解いてくれた。

「法律というのは、紛争の解決の一つですよね。世の中にはどうしても争いが起こって、それをどういう形で解決するかの方向性が何にもなかったら解決にいたらない。その基準が一応、法律なんです。例えば、赤信号では止まる、青信号は進むというように交通ルールがあるから、事故が起きたときどっちが悪いかを判断できますよね。それと同じで基準がなかったら判断できない。法律があるから絶対に従わないといけないと考えるのではなく、あくまで社会生活を送るに当たっての基準の一つだと思ってほしい。社会のルールが法律です。だけど、交通ルールのように詳しい人も少ないし、どう生かして社会を円滑に進めたらいいのかは分かりにくい。そこを弁護士がやるというわけです。そう考えてもらえたらと思います。」


5)すべては俺たちの気分次第よ! (ダイヤ)

 「マンガ好きの弁護士」と言うことで、どんなジャンルのマンガを読むかを聞いてみた。『課長島耕作』のような大人が読むマンガは「あぁめんどくさ!」と思って読まず、少年マンガを読んでいるとのこと。最近は少しマンガ熱が落ちているそうだが、ずっと読んでいるのは「バキ(刃牙)」だそう。

そして、日本マンガ学会の会員でもある尾崎先生。そこでは、いわゆる「マンガ学」の研究が行われているそうだ。素人目なら「どうでもいい」と思うようなところ、例えばマンガで描かれている線や歴史的な背景、について様々な角度から批評を行っている。先生はもともと著作権の勉強がしたいと思っていたところ、先輩弁護士に「君、マンガ詳しいなぁ」と学会を紹介されマンガにどっぷり浸かり、さらに人が人を呼んで紅鶴に出入りするに至ったのだ。

私自身、弁護士は娯楽に目を向けず、というイメージがあったが、オタクや隠れオタクは結構いるのだそう。
「僕みたいにここまで全面的に趣味を出す人は同世代では少ないけど、若い世代は生きていくのが大変だから、いろいろやっている人もいますよ」
昼間は弁護士をしながらプロのバスケットボールプレーヤーとして活動していたり、何ヶ月に一回は格闘技に出ていたり、もちろん昨今ではテレビに出る人も多いし、弁護士の形が多様化していると言う。

弁護士というのは本質的に儲かる仕事ではないと先生は言う。揉め事を解決してもらえるお金は知れているし、お金がない依頼者も多い。解決しても喜ばれないことだってある。つまり世の中のイメージは良すぎるのである。さらに先生は「モテたかったけど、モテへんかったなぁ!(笑)」と笑いながら怒りながら泣きながら言った。

では、果たして、弁護士の実態は何なのであろうか。試験に何度も挑戦してようやく受かって弁護士になっても、将来を約束された仕事ではない。安定した仕事、儲かる仕事の象徴として見ていたが、そうではなかったようだ。

尾崎先生はこう言った。「弁護士は自分で選べる仕事」だと。

「バリバリの人権派の弁護士として活動する!という人がいれば、とにかく金儲けに走る!という人もいる。この両極端が有り得る。自分の中のスキルをどのように生かしていくかは人それぞれ自由に選べるということ。
極端な話、裁判官や検察官になれば、僕みたいに紅鶴に入り浸ることはできないですよ(笑)。彼らは役所にいて、安定しているから食うのには困らない。だけど、おネエちゃんと遊んだり、マンガ学会に行ったり、ガンダムいいよねーという話を永遠にしたりはできないんです。弁護士をしていたら食うのに困る時も出てくるけども(そうでない人もいるけど)、それを含めて自分の好きなことをできる。それなりに楽しんでやっているからいいかなぁと思っています。
でも、家に帰ったら、『とても弁護士と思えんわ』と嫁と子供に尻を叩かれていますけどね(笑)。」


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プロフィール

まりお

Author:まりお
「“フリ”ライター」高島まりおです。

気になる方へインタビューし、記事を書いていきます。
その他、面白いこと、楽しいこと、興味あることを中心に、綴っていきます。

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目指すは…Sex And The Cityのキャリーブラッドショー!

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